依存症を克服するために

筆者は残念ながら医師ではありません。この依存症克服の手段については、複数の書籍の情報と、自身の経験測などを交えて、記載していますので、間違っていることも中にはあると思います。全てが正しいなどとは思っていません。依存症克服は、とても険しく簡単なことではないですが、私は少しでも、世の中の困っている人の助けになればと思って、情報を吟味しながら書いています。その点はご理解いただき、お読みください。

スマホ依存症を克服して、正常な生活を送れるようにするためには、どうすればいいのか?
スマホ依存症に限らず、どんな依存症も克服することは容易ではないけれども、必ず克服できます。生まれた時から、ギャンブル依存症であった赤ん坊はいないし、薬物依存症であった赤ん坊もいないのだから。

スマホ依存症からの回復のために行うこと

前提として、医師の診察を受けるか、自分もしくは家族内で問題解決にあたるかを決める必要があります。スマホを使用しすぎて、学校や会社を休まなくてはいけないような日が時々あるような状態、つまりは日常生活に支障をきたして言えるような状態なら、医師の診察を考えるべきです。子どもがスマホ依存症である場合、本人が依存症であることを認めないケースもよくあるので、まず、親が病院で話を聞くということも考えましょう。

(とはいえ、医師に見てもらうべきだと頭の中で認識しても、精神的なことで医師のお世話になるということは、それなりにハードルの高い事項です。筆者自身、精神科に行くべきだという時に、その決断を下せなかったことがあり、理解できます)

まずはじめに、依存症がどういう病であるかということを知ることです。敵を知らずに勝利することはあり得ません。自身がスマホ依存症であるという認識または疑いを持ったのであれば、そのスマホ依存症について、知る努力をしてください。このブログでも、情報は発信していますが、それを読むだけでなく、自身で本を読み、他者の協力を仰ぎ、情報を集める。それが最優先です。

依存症の治療とは「治り続けること」

依存症にならないためには、完治しても、その後も、完治した状態を維持し続けなくてはならないということです。「アルコール依存症が治りました。そのお祝いに一杯やりましょう」では意味がありません。「治り続ける」必要があり、それには終わりがないのです。

依存症治療の目標はある意味で単純明快です。問題になっている行動をやめること、それだけです。

買いもの依存症の人が、子どもの頃に自分をいじめた父親と母親を憎んでいたとします。その憎しみはそのまま持っていても何も問題はありません。むちゃな浪費さえやめればいいのです。

ネットゲーム依存症の人が学校嫌いで、それがきっかけで引きこもりになって、ネットゲームに没頭するようになったとしても、学校を好きになる必要はありません。生活の全てをネットゲームに奪われている状態から抜け出せればいいのです。

心の病と対峙するとき、精神科医や心理学者の中には、それではダメだという人がいるかも知れません。実際に依存症などの、心の病を治療する場合、心理療法を取るケースも多いので、表面的なものではなく、心の底にある悩みをじっくり聞いて、ひとりひとりの精神的な成長によりそって、ゆっくりと心の持ち方を変えていく、そういう治し方もあるでしょう。

患者に寄り添うことは大事ですが、依存症の治療にはその先があります。人生の物語に耳を傾け、その人の悩みに共感するだけでは、どうかすると「依存症であること」の正当な理由を見つけて、現状を変えることなく終わりになってしまう恐れがあります。そうではなく、そこから新たに行動しなくてはいけないのです。

行動を変えなければ、心の持ち方は変わらない。

人間の心に対する深い省察や哲学的な思索は、心理学や精神医学には必要ですが、依存症の患者の治療に必要なのは、10回の依存行動を8回に減らし、8回を5回に減らし、5回を3回に減らし、ゼロにまで持っていく具体的なテクニックです。

依存症を克服するのための手順

行動の記録をつける

依存症の治療は「行動を変える」ことです。行動を変える第一のステップは、正確な記録をつけることです。「どうしてもスマホゲームがやめられなくて困ります」というような場合、本人も家族もパニックに陥っていて、しっかり記録をつけることなどできそうにありません。しかし、それをやらなくてはいけません。行動を記録するには、自分を突き放して他人の目で眺める視点が必要で、それが治療の役に立つからです。

(仮にスマホゲームをやりすぎてスマホ依存症になっている人の例で考えてみます)

「1日何時間ぐらいスマホを使用していますか?」
「わからないぐらい使っています。そのまま眠ってしまうことも多いし・・・」
これでは、行動の記録と言えません。

「先週はスマホゲームをしなかった日はありますか?」「一度に何時間ぐらいスマホを使用していますか?」「どんなタイミングでスマホゲームを始めていますか?」こういうことをできるだけ克明に、日記のようなものに書いてみるのです。

心理学で行動記録をつけるときには、回数を記録するか、時間を記録するかという選択があります。一回のエピソードが短く、いつ始まっていつ終わったか、わりとはっきりわかる場合は回数を書く。依存症の場合、たばこを吸ってしまった記録などには回数の記録がいいでしょう。問題の行動があまり頻繁に起こらない場合は、どんな行動だったかを一回ごとにくわしく記録します。

問題の行動が結構頻繁に起こっている場合は、いちいち細かい記録はできません。そういうときは、例えば、10分ごとに生活時間帯を区切って、その間に問題の行動が起こったかどうかを「〇」「×」で記録します。

回数は少なくても問題は深刻という場合があります。ネットゲームなどはその例です。このような場合は、いつ始めていつ終わったか、時刻を記録します。自分では短いと思っていても、記録してみると、案外長い時間やっているので驚く場合があります。その「驚き」が大切です。

行動を作り出す3つの要素

私たちの行動は、何かの状況があって、そこで何かの行動をし、その結果として何かが起こるという流れの中で理解できる。だから行動を記録するときには、問題行動を始めるきっかけになった出来事をかいておくとよいでしょう。

例えば、①電車の中吊り広告を見て(状況)、②週刊誌を買い(行動)、③案外つまらないのでがっかりする(結果)。あるいは①とても暑い日に(状況)、②かき氷を食べて(行動)、③ホッとする(結果)。このように、およそ、あらゆる行動が、状況・行動・結果の関係で理解できます。

ここでの大切なポイントは、似たような状況を再び経験したとき、その行動が増えるか、減るかである。例えば、中吊り広告の例では、雑誌がつまらなかったので、再び広告を見てもこの週刊誌を買う行動は減るだろう。暑い日にかき氷を食べる行動は、自分としては満足したので、機会があったら増えるだろう。

「状況」「行動」「結果」という三つの要素はつながっています。これを「三項随伴性」という。原因があって結果につながる意である。「たまたま(随)」「伴う」という言葉を使うのは、正確な因果関係は誰にもわからないからである。

「状況」は私たちの行動をコントロールしています。もっとも簡単な例は交通信号でしょう。青は進め、赤は止まれ。赤のときに進んだとしても、その結果に責任は持てない。私たちは結果から学び、青のときに進み、赤のときに止まる確率を増やしたのです。

「結果」には、その後、似たような状況に出会ったときに行動を増やすものや減らすものがあります。暑い日にかき氷で爽快な気分になったら、暑い時に氷を食べる頻度は増えるでしょう。週刊誌が存外つまらなかったら、その週刊誌を再び買う頻度は減るでしょう。ある結果がその後の行動の頻度を増やしたら、そのような結果を「正の強化」という。減らしたいときは「正の罰」という。

ただし、行動の記録をつけるときには、「爽快」「つまらない」といった気持ちの問題はあまり考えなくてよいです。具体的に目に見えることだけを書いて、どういう結果が行動を増やし、どういう結果が減らしたのかを詳しく書いておく。最初は手探りだが、こういう記録を何日か、何週間かこまめに続けていると、自分の行動を増やすのは何か、減らすのは何かが見えてきます。

新しい行動習慣のための5つの原則

依存症の治療では、問題行動を減らすこと、ゼロに近づけていくことが目標です。しかしそれを「新しい行動習慣を作る」という風に置き換えて考える。問題行動が一時的に抑制されただけでは意味がないからです。

新しい行動習慣を作るためには、適切な強化になるもの(これを「強化子」という)を選ぶ必要がある。称賛の言葉、スタンプカード、短い自由時間(ただし依存症の対象への接近はダメ)、少額の小遣い・・・一回ですぐに「満腹」にならず、飽きないものがよいです。強化子は、治療の途中で変わることもあります。

また、行動習慣を作り上げるときには、「5つの原則」が重要です。

原則1:課題を明確に、そこに至るステップを明確に(スモールステップの原則)
原則2:自発的な行動を待つ(積極反応の原則)
原則3:行動の結果をただちにフィードバック(即時強化の原則)
原則4:学習者の能力や段階に合わせて(自己ペースの原則)
原則5:他人と比べず、以前の自分と比べる(自己ペースの原則)

第1の原則は、具体的な目標を決めることです。そして、現状(ベースライン)と目標との間を細かいステップに分けます。たとえば、アルコール依存症の入口にさしかかったあなたが仕事帰りにどうしても毎日居酒屋に寄り道してしまうとする(現状)。そこで、せめてこの一週間は酒断ちをして過ごすことにする(目標)。最初の日はまっすぐ家に帰る。次の日は30分散歩をして帰る。次の日はそれを1時間にする・・・こうして飲酒以外の行動の頻度を増やしていく。

第2の原則は、強制はしないということです。あくまで自発性を重んじる。これには治療者にも忍耐が必要です。

第3の原則は、目標に近づいたと思ったらただちに強化子を与えることです。特定の行動を作ろうと思ったら、「今だ」というタイミングを逃してはいけない。居酒屋に寄らずに家に帰ったときには、ドアを開けたら「お帰りなさい」という温かい声が必要なのである。すると「この行動が良い結果につながったのだ」という関係(これが随伴性)が明確にわかる。行動と強化の間に時間が空くと、何が良かったか悪かったかがわからなくなる。「ただいま」と「おかえり」の間が数時間も空いてはいけない。「信賞必罰」という言葉があるが、あれは心理学的にも正しい。

第4と第5の原則では「個人のスピード」が重視されています。「自己ペース」とは、その人に合わせてコースを作るということである。学生の頃、数学の練習問題を解いていると、最初は易しいけれど、あるところから急に難しくなってつまずくことがあった。あれは集団向けの教材が自分に合ってなかったのだろう。行動形式のテクニックでは、教材や課題は個別に作ります。集団に合わせることが目標ではありません。「他人とくらべない」ことも重要です。歩みの早い人もいれば遅い人もいる。進歩しているかどうかは、他人と比べて判断するのではなく、自分の過去と比べて判断しましょう。

行動習慣を維持する

いったん形成された新しい行動習慣は、ずっと維持されていなければ意味がありません。このときには、「間欠強化」あるいは「部分強化」と呼ばれるテクニックが役に立ちます。

連続強化よりも間欠強化のほうが行動は安定し、頑健になる。連続強化の場合、あるときに強化をやめると、「事態が変わった」ことがすぐにわかってしまう。しかし、間欠強化はもともと「歯抜け」のようなタイミングで強化が与えられるから、いつか強化をやめてしまってもそれほど目立たない。

強化の資源は無限ではありません。いつもほめてくれる人が身近にいるとは限らないし、スタンプカードをためることも一生続けるわけにもいかない。

依存症の治療と支援のためには、何らかのサポートは一生続ける必要があります。しかし、治療初期のような強力なサポートはいつまでも続けられず、また、それを常に必要としているようでは回復に向かって進んだとは言えない。したがって頑健な「行動習慣」を作っておかなければならない。

実際のさじ加減は難しいが、たとえば治療の間隔を空けていくこと、1週間に1回の面接だったのを2週間に1回にするとか、さらに1カ月に1回にするとかいった方法も、連続強化を間欠強化にもっていく方法です。

こうしてみると、依存症の治療における治療者の役割の大きさがわかります。治療者にはやるべきことが実にたくさんあります。行動の記録をつけること、強化子を決めること、強化スケジュールを決めること、「次の目標は何か?」を考えること・・・・治療者と患者の関係はスポーツのコーチと選手の関係に似ています。実力を伸ばしていくのは患者(選手)の仕事、そのための環境を整え、患者のコンディションを見守って、患者が次にどこに行くべきかを示すのが治療者(コーチ)の仕事です。

ふりかえり

例えの話に、アルコール依存症の方をモデルにした話が多かったために、わかりにくかったかも知れませんが、スマホ依存に悩む方でも、おおまかな考え方は同じです。まず、患者と治療者(親など、患者を支える人)がそれぞれいる場合は、じっくりと話しをすることから始めましょう。治療者がおらず、自分ひとりで実施する場合はしっかりと計画を立ててください。ひとりでも根気よく続けられれば、必ず実現できます。

ふりかえりです。はじめに、患者の行動記録をつけることから始めます。これによって、患者の行動を認識します。記録する際に、行動を作り出す3つの要素「状況」「行動」「結果」を意識して、記録します。自分の行動を増やすのは何か、減らすのは何かが見えてくるはずです。次に、新しい行動習慣のための5つの原則がありました。行動を変えようとする時、はじめの第一歩は小さくて構いません。少しずつ少しずつ変えていきます。そして、新しい行動を習慣として維持するために、間欠強化をうまく実施します。

情報としては、まだ少し不十分かも知れませんが、依存症を克服するためのきっかけに、なれたのであれば幸いです。また何かあれば、情報を追記していきます。依存症と対峙している方のコメントもお待ちしています。

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